ひろ子の揉め事│浮気男を斬るさくらももこの痛快エッセイ

はじめに

さくらももこさんと言えば、
その冷静な観察眼と、強力な妄想力を発揮した文章です。

今回はその2つの才能が如何なく発揮されたエッセイ、
「ひろ子の揉め事」を紹介します。

「ひろ子の揉め事」はエッセイ集『たいのおかしら』に収録されています。
たいのおかしら (集英社文庫) | さくらももこ |本 | 通販 | Amazon

『たいのおかしら』のその他エッセイに関する記事はこちら。
さくらももこの『怠け者の日々』──ぐうたらに全力を注いだ青春 | より笑う人生

あらすじ紹介

街中を自転車で走らせていると、マンションの前で若い女二人が男一人を取り囲んで叫んでいる。
「ひろ子がかわいそうでしょ」
どうやら、ひろ子という女の子が浮気をされ、女友達二人が男を糾弾しているようだ。

他人の揉め事を面白がって「青春青春」と言って笑い、その場を去るさくらさん。
もう二度と会うことはないだろうと思っていたが…。

■結末メモ（※軽いラスト触れあり）

三人をひやかした後、
野暮用が出来て事務所へ赴く必要があり、
さくらさんは再度家を出ます。
結局事務所～自宅を往復する間に再度出会ってしまい、
非常に気まずい思いをしましたとさ。

勝手に批評される哀れな浮気男

女二人に糾弾される男に対する、さくらさんの勝手な評価があまりにもひどいです。

それにしても、この女たらしの顔はそれ程たいした物ではない。見るからに軽薄そうではないか。この男が真剣に女に忠義を果たすとは思えない。

さくらももこ. たいのおかしら (集英社文庫) (p.131). 株式会社集英社. Kindle 版.

どうして初見の男に対してここまで言えるのでしょうか。
この男には同性として同情を禁じえません。
…が、読んでいて頬が緩むのを抑えられませんでした。

他の追随を許さないさくらさんの妄想力

そしてさくらさんの真骨頂である協力な妄想がさく裂します。

私がひろ子の親だったら、ひろ子に別れ話を勧めたであろう。
<中略>
「ひろ子、男っていうのはねぇ、チャラチャラと調子が良いだけじゃダメなのよ。ねぇひろ子、あなたがつきあっているあの人、なんだかお母さんは気にいらないわね。人間としての深味がないわよ。<中略>」
ひろ子は親の言う事もきかず、サーフボードか何かをかかえてあの女たらしの許に走ったのだ。

さくらももこ. たいのおかしら (集英社文庫) (p.131). 株式会社集英社. Kindle 版.

なにがさくらさんをここまで感情移入させるのでしょうか。
さくらさんが凄いのか。
それとも、ここまでさせるひろ子になにか魅力があるのか…。

女友達にはかばってもらえるし、
さくらさんにはエッセイにしてもらえるし。
ひろ子はなにか持ってますね。