「コメント欄が私の意見」症候群──さくらももこ『睡眠学習枕』から学ぶ思考停止

はじめに:コメント欄につられる自分
YouTubeやネット記事になぜのめり込むか
ネット記事やYouTubeを読んでいる時の自分を顧みると、
頭をほとんど回転させていないことに気づく。
自分の意見や価値観は曖昧なままにコンテンツに触れて、
「大量のコメント=自分の考え」
としているのではないかと感じている。
さくらももこの“睡眠学習枕”事件
さくらももこさんのエッセイ「明け方のつぶやき」を読んだ。
このエッセイは、ベストセラーの『もものかんづめ』に収録されている。
さくらさんご自身の性格の騙されやすさが原因で
無益な買い物をし続けた過去が自虐的に紹介されている。
おおまかなあらすじは以下の通り。
学生時代、さくらさんは”睡眠学習枕”の存在を知る。
あらかじめ単語のスペルを吹き込んで置き、
朝方に流れるようにセットすることで、
頭は起きているレム睡眠時に単語を覚えられる…。
夢のような商品に心打たれたさくらさんは、
周りからの引き留めも無視して枕を購入。
しかし説明書には
「まず、覚えようと思う単語を百回書くこと」
と記載されている。
そんな努力をしたくないのにこの”睡眠学習枕”を購入したのに…。
結局枕は1回しか使わず、押し入れの闇に葬られた。
なぜ他人の声に乗っかるのか
さくらさんがこの枕を購入しようとした際、
母親、従妹の二人に強く止められている。
それでも購入に踏み切ったのは、
広告に載っていた
『僕は眠りながらライバルに差をつけた!!学年三位』
という、さくらさんとは縁もゆかりもない大阪府のA君の言葉を信用したからだ。
親しい周りの人間の意見は無視し、
面識の無い人間の意見に従う。
ただの無駄遣いのエピソードではあるが、
新興宗教にハマるさまを見ているような怖さもある。
人間誰しも、自分と同意見の存在を見つけると安心する。
私もそういう人間だ。
コメント先読み症候群のメカニズム
ただ最近強く感じるのが、
自身と同意見の集団を探すことすらせずに、
大勢の考えに自身の考えをすり寄らせていくケースが
多くなったのではないかということだ。
ネット記事はまずコメント欄を見る。
記事の内容よりも、世間がどんな意見を持つかが気になるのだ。
YouTubeは動画を流し観しつつ、
コメントを読んでいる。
どんなコメントが多いかを頭の中で把握して、
その動画の質をはかる自分がいる。
ネット記事やYouTubeにのめりこむ原因
なぜネット記事やYouTubeが楽しいか。
正確には”楽しい”のではなくて、”楽”なのではないか。
YouTubeで言うと、
- 自分は何を楽しいと思うか
- キーワードで検索する
- 面白そうな動画をチェックする
- 動画に対してどう思うか判断する
というプロセスではなく、
- YouTubeのアルゴリズムで提案された動画を観る
- 動画を観つつ、コメントを読む
- よりイイねのついたコメント数件をもとにその動画を評価する
というプロセスを踏んでいる。
このプロセスの中で自分の頭を使う場面は少ない。
自身の価値観と照らし合わせて、コンテンツが自分にとってどのようなものなのか判断していない。
まわりの人間の評価を認識し、そこに自分の意見をすり寄らせている。
おわりに
睡眠枕の広告を読んで、
一切面識のない大阪府A君の意見に共感するというプロセスを踏んで
バカを見るさくらさんは、
「楽して賢くなりたい」という考えのもと、
自分の意思でこのA君を信用しただけ、まだマシなのではないか。
『他人の意見=自身の意見』
としてしまう今の自分は、
世間一般の意見を自分も持っていることに”してしまう”から、
今後大きなアクシデント(人との意見の衝突)にはつながらないが、
あまりにも味気ない人生を送っているなぁと感じている。
自戒せねば。
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